Story



彩りのキャンバス

 

☆黒澤家自宅

プルルルル、プルルルル (電話の呼び出し音)

ガチャ (受話器をとる音)

黒澤「ハイ、…あっ、どうもどうも。いつもお世話になっています。えっ、ああ、はい…例の件、ですか?ええ、本人には一応伝えました。…伝えたの…ですが…ええ、確かに本人は前々からやりたかったらしいのですが……ただ、流石に時期が時期ですからねぇ…無理はできないかと。ええ、やっぱりあの子にとっても将来にかかわる大切な時期ですし。わがままを言ってしまうと両親にもいろいろと迷惑がかかりますからねぇ…。ええ…はい、もう一度相談してはみます…。お返事はそれからでもよろしいですか?…あっ恐れ入ります。はい。では失礼します。」

ガチャ (受話器を置く音)

黒澤「…ふう。」

 

☆学校の図書館前

ナレーション(彰)「夏、夏休み。高校生最後の夏。海やプールや花火はしばらくお預け。受験の年でもある今年の夏は、図書館に通いつめる毎日である。」

タッタッタ(歩く音)

生徒「あれっ?彰じゃない?」

彰   「えっ?ああ、久しぶり。もしかして、学校の図書館にいくの?」

生徒「うん、ちょっと参考書を借りに。彰も?」

彰   「ああ、静かなところで勉強しようと思って。夏休み中でも受験生のために自習室貸してくれるってきいたから。ほら、家だとお盆の時期だし親戚たくさん来るからね。」

生徒「そうなんだぁ。…あれっ?」

彰   「なに?」

生徒「それ、スケッチブック?」

彰   「えっ?ああ。そうだよ。」

生徒「勉強に使うの?」

彰   「まさか、ただのスケッチブックだよ。」

生徒「だったら、どうして持ち歩いてるのさ?」

彰   「なんとなくだよ…なんとなく…。」

生徒「ふ〜ん。」

ナレーション(彰)「勉強は大切。受験生なら尚更。わかってはいるのだけど、僕達は憂鬱は日々を送っていた。」

ミーンミンミンミーン(蝉の鳴き声)

 

☆図書館

放送「まもなく閉館の時間です。残っている生徒は下校の準備をしてください。…まもなく閉館の時間です。…」

彰   「もうこんな時間か…」

 

☆廊下

タッタッタ(歩く音)

彰   「流石にこの時間になると誰もいないな」

ペラペラペラ(紙をめくる音)

彰   「息抜きに描こうかと思ってたけど、結局今日も描けなかったな…。」

ペラペラペラ(紙をめくる音)

彰   「受験まで、あと半年…か」

ペラ…(紙をめくる音)

彰   「…ふう。」

彰   「(なんか…おかしいんだよな…。何か足りないと言うか…。)」

彩   「そう、何かが足りなかったの。」

彰   「えっ?」

彰   「違う…向こうからだ。」

タッタッタ(歩く音)

彰   「…誰かいるのか…。」

タッタッタ(歩く音)

彰「(…女の子?)」

ナレーション(彰)「そこには、女の子がいた。上から下まで小さな 真っ白い服に身を包み、彼女はなにやら思いつめた様子で窓の外を眺めていた。その姿はとても幻想的で、まるで映画のワンシーンのようだった。別にこっちが隠れる理由なんかなかったけど、その姿がに思わずみとれてしまい、しばらく陰から様子を見ていた。」

彰   「(…この娘、一人で何やってんだろう?)」

彩   「…私はこの世界に何を求めていたのだろう。」

彰   「…世界?…求める?何言ってるんだ?…。」

彩   「…私はこの世界に何を求めていたのだろう…。…ふふ、考えても仕方ないわね。…死んでしまった今となってはそれはただの未練。もう意味をなさないものなのに。」

彰   「(…死ん、だ?)」

彩   「ふぅ…もう帰ろう。」

タッタッタ(歩く音)

彰   「やべっ、こっち来る。」

タッタッタ(歩く音)

ドサッ(物を落とす音)

彩   「だれ?」

彰   「(やばい、気づかれたか?)

彩   「気のせいかな…あれっ?」

パサッ(物を拾う音)

彩   「スケッチブックだ…。」

彰   「あっ。」

彩   「…やっぱり…隠れてないででてきて。」

タッタッタ(歩く音)

彰   「その…こんにちは。いや、こんばんは、かな?」

彩   「どっちにせよ、のぞきなんて、良い趣味じゃないよ。」

彰   「…ごめん。」

彩   「…。」

彰   「…。」

彩   「私に…何か御用ですか?」

彰   「えっ?」

彩   「用があってのぞいてたんじゃないの?」

彰   「あっいやだから悪気があったわけじゃないんだ。こんな時間に一人で何してるんだろうって…その…思わず見とれてしまったというか…。」

彩   「…。」

彰   「あああ、いや。そのくどき文句とかそういうのじゃなくてさ。その姿が…その、まるで…」

彩   「…まるで?」

彰   「…まるで…その…幽霊みたいだな…って」

彩   「えっ?…」

彰   「あああ、たっ、たっ、例えばの話だよ。真っ白い服なんか着てうらめしそ〜に窓の外なんかながめていたからさ。まるで幽霊みたいだな〜って、ねっ。」

彩   「ピンポーン」

彰   「はっ?」

彩   「御名答。よくわかったね?」

彰   「へっ?…え?えと、ほんとに?…そうなの?」

彩   「そっ、お盆だしね。実家に顔見せに行きがてらちょっと寄り道しようと思って。」

彰   「へっ、へぇ〜…そっそうなんだ…。」

彩   「…ここだけの話なんだけど、私はまだこの世に未練があるんだ。腹いせにあと2、3人位摂り付かないと成仏する気ないんだけど…どう?協力する気ない?」

彰   「え?あ、いやいや、ぼくはその、まだやり残したこともあるので遠慮します。」

彩   「そっ、残念。」

彰   「…。」

彩   「…。」

ペラペラペラ(紙をめくる音)

彩   「へぇ…うまいじゃない?。」

彰   「えっ?あっ勝手にみるなよ。」

彩   「あれっ?この先真っ白だ。日付は…4月で止まってる。」

彰   「ちょっと、返してよ。」

彩   「どうして?」

彰   「どうしてって、それは俺のだからだよ。」

彩   「違うよ。どうして描かなくなったの?」

彰   「…受験生だから」

彩   「『受験生だから』描かないの?」

彰   「それは…その」

タッタッタ(歩く音)

彰   「ちょっ、ちょっとどこへ行くんだよ?」

彩   「答えを教えてくれるまで返してあげない。」

彰   「何?ちょっと待て。」

彩   「嫌だったら腕付くで取り返してみなよ。」

タタタタ(走る音)

彩   「もっとも、勉強ばかりしてるガリ勉君には一生無理だと思うけどー。」

タタタタタ(走る音)

彰   「いったい何がどうなって…。」

彰   「…。」

彰   「…。」

彰   「…ふぅ…」

彰   「…育ち盛りの現役高校生を…」

タタタタ(走る音)

彰   「…なめるなよ!」

ツクツクホーシツクツクホーシ…(蝉の鳴き声)

 

(若いっていいなぁ…後編へ続く。)

 

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