Story


Harmony

 

☆電車の中

ガタンガタン(電車の音)

(勇希)あるの夏の日のことだった…。

☆回想

勇希「父さん、ちょっといい?」

父 「(コク)」

勇希「うん。父さんの海外出張の話なんだけど。…受験勉強もしたいし、やっぱり俺一人で残ることにしたよ。」

父 「…。」

勇希「せっかくの機会なんだ。新婚旅行もろくにしなかったんだろ?ついでに夫婦水入らずで行ってくるといいと思うんだ。」

父 「…。」

勇希「えっ?一人で家に残しておくのは気が進まないって?心配性だなぁ。」

父 「…。」

勇希「ああ、だからね。俺に良い考えがあるんだ。」

 

☆回想終わり

勇希「…おじさんのペンション、か…。」

(勇希)高校生最後の夏休み。僕は、残りの1週間をまったく見知らぬ土地で暮らすことになった。

 

ガタンガタン(電車の音)

 

恵美『Harmony(タイトルコール)』

☆とある田舎にて

 

ミーンミンミン(せみ)

 

拓 「よっ。お世話様。」

恵美「こんにちは、知沙さん。」

知沙「ああ。」

拓 「相変わらず静かなところだねぇ。繁盛してるの?」

知沙「馬鹿をいうな。こんなところ繁盛しないに越したことはない。」

拓 「まぁそりゃそうだけど。」

知沙「無駄話はいい。さっさと準備しろ。」

恵美「あっ、はい。」

拓 「…ゃあ、メグ。おとなしくしてるんだぞ。」

恵美「えっ?拓さん、どこか行くの?」

拓 「ああ、ちょっとね。もうそろそろ駅に着く頃だと思うんだ。終わったらおとなしく待ってるんだぞ。」

恵美「駅って…誰か来るの?お客さん?」

拓 「いや…臨時のお手伝いさん、かな?」

恵美「…お手伝いさん?」

拓 「(含み笑い)…すぐ帰ってくるよ。心配しないで待ってなさいな♪」

タッタッタ(歩く)

知沙「恵美、気をつけた方がいいぞ。あいつがああいう顔をする時は、ロクな事がおきない。」

恵美「…。」

☆駅

プシュウ(電車のドア)

ミーンミーンミンミーン(セミの声)

(勇希)目的地に着くと彼は電車を降りた。待ち合わせの場所を駅の案内板で確認すると、外へでるため改札口へと向かう。

タッタッタ(歩く音)

勇希「(静かだ…。足音の音がやけに引き立つな。…時間的に誰もいなくていい時間だったからなのだろうか?それとも…。)」

(勇希)平日といはいえその人通りの少なさに一瞬降りた駅を間違えたのではないかと思ったが、大きな文字で「ようこそ」と描かれた観光地特有の案内板のことを思い出すと、その考えが間違いであることに気付いた。また、同時にここが目的地であることがわかった。一言で観光地といっても賑やかなところとそうでないところがある。ここはきっと後者だろうと勝手に納得することにした。 

 

タッタッタ(足跡を止める)

(勇希)古びた建物を出ると、澄んだ空気が彼の肺を満たした。都会では絶対に味わえない空気。ほこりの混じっていないとても新鮮な空気のにおい。

   時間という概念を捨てたいつまでも変わらない世界。都会で育ったくせに、暮らしたこともないこの土地にまるで帰郷したがごとく懐かしさ感じるのはどうしてだろうか。」

タッタッタ(歩き出す。)

(勇希)その不思議な懐かしさのただよう中、僕は目的地に向かって再び歩きはじめた。」

勇希「(目的地、か…。本当は、ここに来る目的地自体なかったのだけどね…。)」

(勇希)今から向かうおじさんのペンションへは、小さい頃、父さんに連れられてよく遊びにいっていた
広大な大自然を舞台に手足をのばし思いっきり遊ぶ。それが子供の俺には充分な遊びだった。
だが、父さんが忙しくなってからというものここにくる機会は少なくなり…俺自身も次第にここのことを忘れていった。…だから、こうしてこの地を歩くのは本当に久しぶりだった。

それにしても…。

勇希「おじさん…おそいなぁ…」

ブロロロロ…(遠くから)

勇希「…ん?」

キィィィ、バタン

拓 「いやぁ〜わるいわるい。待たせたかな?」

勇希「えっ?」

拓 「ちょっと用事があってね。遅くなっちゃったよ。それとも今来たとこだったぁ?」

勇希「…。」

拓 「ん?どしたの?」

勇希「…あの、あなたは…?」

拓 「…勇希、君だよね。先生の息子さんの…。」

勇希「…先生って……もしかして…。」

☆車内

ブロロロロロ(車の音)

勇希「そうですか。おじさんは今旅行中なんですか…。」

拓 「そうだよ。もとからバイクが生きがいな人だったからね。最近はほとんど俺に任せっきりで日本中飛び回ってるよ。だから、今は俺があそこの宿主代行。先生から聞いてなかった?」

勇希「…はい。」

拓 「あはは。先生は無口な人だからなぁ。…マスターはマスターで忘れっぽいしね。突然旅行先から『明日甥が来る』なんて聞かされた日にはもう…。でもよかった。写真とか持ってないから見つけられるのか心配だったけど、いざ着いてみたら、若くした先生にそっくりな子がいるじゃないか。ああこの子だなってピンと来たよ。」

勇希「…そんなに似てますか。」

拓 「似てる似てる!そっくりだよ。顔つきとかもそうだけど雰囲気がもう!こう、なんか全てを悟った!という感じがね。…あっ、悪い意味じゃないよ?」

勇希「…はぁ。」

柘「しっかし、相変わらず先生も忙しそうだねぇ。2週間も外出張かぁ。」

勇希「…。」

(勇希)周りの雰囲気に思いっきり不釣合いな赤いスポーツカーに乗って僕の前に現れた男の人は、『拓』と名乗った。…それにしても…。

勇希「(…謎だ)」

(勇希)まるでペンキをぶちまけたような柄のアロハシャツ… フレームがジグザグに曲がっているサングラス 

柘「ん?どうしたの?俺の顔に何かついてる?」

勇希「えっ?いや。父の教え子だっていうから、どんな堅物なのかなってと思ってたので…。」

拓 「あはは。俺は先生の教え子の中でも出来損ないのほうだからね。…それとも、こんなカルい奴が相手じゃお先不安かい?」

勇希「あっ!いえ…。」

(勇希)『人は見かけによらない』という人なのだろうか?それともペンションの経営というものは大それたものではないのだろうか。

ブロロロ(車の音)

勇希「…それはそうと、大丈夫だったんですか?急に押しかけてしまったりして。」

拓 「気にしない気にしない。こんな商売だからね。人の世話をするのは慣れっこなのさ。」

勇希「はぁ。」

柘「…それにこっちもちょうど稼ぎどきだからね。人手は多いほうが助かるんだ。」

勇希「はぁ…はっ?」

拓 「『はっ?』って。手伝いに来てくれたんじゃ、ないの?」

勇希「俺、一応受験生なんで、静かなところで勉強でもしようかと…。」

拓 「……え?」

勇希「…。」

拓 「…手伝って、くれないの?」

勇希「…父さんから何も聞いてなかったんですか?」

拓 「…うん、無口な人だからね…。」

勇希「……。」

柘「い、いいじゃないか。折角の夏休みなんだ。暇を持て余すのはもったいない。」

勇希「だから受験生なんですって….。」

柘「…。」

勇希「…。」

拓 「も、もちろんただ働きはさせないさ。ちゃんとバイト代はだすから、ねっ。」

勇希「でも…。」

柘「あらやだ。これからの宿代2週間分、本気で踏み倒す気でいるの?」

勇希「…。」

拓 「まだ若いんだ。今のうちにいろんなことやっといたほうが社会に出て役に立つと思うよ。ねっ?ねぇ?」

勇希「…はぁ。」

プルルルル、プルルル(携帯電話)

拓 「はい。…えっ?もう終わってるの?わかった、すぐ行くよ。…あっ、ちょっと寄り道していいかい?」

勇希「…ええ、どうぞ。」

ブロロロロ(車の音)

☆知沙のいる建物

ブロロロロ(車の音)

キィイイ(ブレーキ)

ギィイ(サイドブレーキ)

拓 「ちょっと待っててね。」

勇希「はい。」

ガチャ(車のドア開ける)

バタン(車のドア閉める)

勇希「…。」

ガチャ(ドアの開閉)

勇希「なんの建物だろう?蔦にからまていてよくわからないけど…。」

バタン(ドアの開閉)

知沙「拓」

拓 「よう。お出迎えご苦労さん。」

知沙「『よう』、じゃない。いつまで待たせる気だったんだ?」

拓 「わるいわるい。ちょっと道が込んでて…メグは?」

知沙「こんな田舎道でか?…先に郵便局へ行ったよ。」

拓 「郵便…そうか、今週はまだ出してなかったのか。」

知沙「…ちょっとはあのしっかりしたところを見習ったらどうなんだ?お前は宿主代理としての自覚はあるのか?」

拓 「へいへい。」

タッタッタ(歩く音)

拓 「おっ、きたきた。おーい、メグぅ。」

勇希「…。」

タッタッタ(歩く音)

恵美「あっ、拓さ〜ん。」

拓 「お疲れ。待たせたかな?」

恵美「ううん。そんなことないよ。」

知沙「はっきり言ったほうがいいぞ。こいつのためにならないからな。」

恵美「ううん、全然平気だよ。」

拓 「うんうん。」

恵美「もうなに言ったって聞かないことには慣れっこだから。」

拓 「がくっ」

知沙「ふふ。」

恵美「…あれっ?」

勇希「…。」

恵美「…お客、さん?」

拓 「違うよ。ほらっ、さっき話してた。」

恵美「…ああ、臨時の、お手伝い、さん。」

拓 「そっ、俺の恩師の息子で、勇希くんっていうんだ。」

勇希「よろしく。」

恵美「…ゆう、き?。」

拓 「で、こっちがうちで住み込みで働いてる恵美ちゃん。俺なんかより歳が近いから話は合うだろ。まぁ、よろしくやってくれ。」

恵美「…」

勇希「…」

拓 「…メグ?」

恵美「えっ、ああ。よろしくね。」

ガチャ(トランクをあける音)

恵美「…。」

勇希「…。」

恵美「…。」

勇希「…。」

恵美「…。」

勇希「…何?俺の顔についてる?」

恵美「…ううん、なんでも…ない。」

バタン(トランクを閉める音)

拓 「メグっ!いつまでつったてんだ?早く行くぞぉ。」

恵美「あ、はーい。」

(勇希)…初対面の人の顔をじっと見るというのは、彼女のクセなのだろうか…

拓 「…ほらっ、勇希君ものったのった。」

勇希「えっ、ああ、はい」

拓 「よぉし!みんな乗ったかぁ?乗ったなぁ?行くぞ出発進行プップー!」

恵美「もう、拓さんはしゃぎすぎ。」

勇希「…。」

(勇希)それが、恵美という少女との出会いだった。

☆回想(檻)

(恵美)その少女は、見えない鎖にしばられていた。

拓 「マスター?マスター!」

マスター「…。」

拓 「ああ、いたいた。マスター、あの子みかけませんでした?ええ、この間預かった…。」

マスター「…。」

拓 「…見かけなかったですか…。困ったなぁ、目を離すとすぐどっかいっちゃうんだから…。」

(恵美)落ち着ける場所を探し求めているためだろうか、この世界から出る手段を探しているのだろうか。だが、どこへ行こうとも少女は絶対にここに帰ってくる。いや、帰りざるをえないというの方が正しかった。この檻のなかでしか彼女に生きる場所は与えられていなかったからだ。そう思うと、その少女がとても哀れに思えた。

拓 「…ちゃんと帰ってきてくれるといいんだけど…。」

(恵美)少女の心は閉ざされていた。

☆ペンション

チュンチュン、チチチ(鳥の鳴き声)

シャアアアア(カーテンを開ける音)

勇希「ん?」

恵美「おっはよ。朝だよ。」

勇希「…何か用?」

恵美「しっごと。お仕事の時間だよ、バイト君。」

勇希「…ああそうか、うん。」

恵美「先に言ってるから早く支度して降りてきてね。」

勇希「ああわかった。」

ガチャ、バタン、ガチャ(開けて閉じてまた開ける)

恵美「そうそう。今度は寝ぼけてパジャマのまま降りてこないでね。」

勇希「…わかってるよ。」

恵美「ふふ。」

バタン(閉める)

勇希「6時か…夏休みは昼まで起きられなかったのに…。変われば変わるもんだな。」

(勇希)ここにいて数日が過ぎた。
自然に囲まれた自由な生活、一見退屈のようでいて、ゆとりのある生活。初めはまるで知らない世界に迷い込んだかのように戸惑っていたが、一度なれるとごく当たり前のことのようにこなすことができた。

ガチャ(ドアを開ける)

(階下のソファーにいる拓をみつける恵美。)

恵美「あっ!もう、拓さんってばなんてかっこしてるのぉ?そこで夜お酒飲むのはかまわないけど、そのままソファーで寝ないでっていつも言ってるのにぃ。」

拓 「お〜。おはよ〜メグ〜。」

恵美「も〜。ちゃんと目を覚ましてよぉ。」

拓 「お〜、今日は必修ないからパス〜。」

恵美「いつまで寝ぼけてるの?早く起きないとお客さん起きてきちゃうよ?」

拓 「いいじゃないか。寝る子は育つっていうだろぅ?」

恵美「…もう『コ』っていう年じゃないでしょ?」

拓 「!!!!!…メグがメグがいじめた。メグがいじめたぁ〜うわ〜ん。」

勇希「…ふふ」

恵美「…んっ?どうしたの?」

勇希「…いや、元気だなって。」

恵美「…ふふ、ありがとう」

(勇希)独特ののんびりとした空気に包まれたなか、しばし現実を忘れ、この異世界での生活に身を委ねていた。

勇希「…あれっ?」

カサッ(紙の音)

勇希「これ、なんだ?」

カサカサ(紙の音)

勇希「…ふぅ。」

クシャ(紙の音)

(勇希)カバンの中に忘れていた一切れの現実。そう、いつかはやってくる現実に、無理やり目をそらせながら過ごしていた…。

☆回想(学校の屋上) 

バタン(ドアが開く)

生徒A「勇希。」

勇希「ん?」

生徒A「ここにいたのか。はいこれ」

勇希「なに?」

生徒A「先生が渡しておけって。資料」

勇希「…資料?」

生徒A「聞いたぞ。おまえ海外留学するんだって?すごいよなぁ。」

勇希「えっ?」

生徒A「職員室で先生達が話してるのを聞いたんだ。なんでもおじさんの知り合いの紹介で決まったんだって?」

勇希「…。」

生徒A「すごいよなぁ、『海外』だって。やっぱり大学教授の息子はスケールが違うよな。」

勇希「…。」

生徒A「?…勇希?」

(勇希)父親からこの話を聞いたのはそれから後のことだった。

(勇希)普段から家庭に仕事の話を持ち込みたがらない父が、家族で出張をかねた旅行の話を切り出すのはおかしいとは感じていた。きっと今回の出張は、下見をさせるつもりで計画したのだろう。

勇希「…だいたい、屋敷のお手伝いさんに一斉休暇を出す時点でおかしいと思ったんだよな。」

(勇希)幸い結婚記念日が近かったことと、久々におじさんに顔を見せに行くという口実で切り抜けることができた。…だが、あっさりと引き下がるところをみると、きっとまだチャンスがあるということなのだろう。

海外で暮らすということには抵抗はない。勉強や運動がつらいと感じたこともない。
ただ、年を重ねるたびに重い決断を強いられることだけがつらかった。
父の子としての責任を背負うこと、父の子として期待の眼差しを背負うことがつらかった

選択肢ごとに、誤った選択をしていないか?という不安に刈られる。
だが、不安を感じても 絶対に『負け』は許されない。

負けることが怖い。先が見えない選択が怖い。
…気がつくと無意識に逃げるクセができていた。

逃げつづけて、逃げつづけて…。最後にはどこへたどり着くのだろうか?

クシャ(紙の音)

勇希「……そりゃ、兄さんの後をついてもらいたいのはわかるけどさ……。」

☆ペンションの中

勇希「ふぁあああ(あくび)」

恵美「さて、今日はちょっと外のお掃除をお願いしていいかな。」

勇希「ん?別にいいよ。」

恵美「じゃあ向こうまで、お願いね。」

勇希「はっ?えっ、ちょっと待って。」

恵美「?」

勇希「向こうって…あの向こうまでのこと?」

恵美「そう。私、ちょっと今日は中の仕込みが多くて…。お願いしていいかな?」

勇希「今日はって、いつもあんなところまでやってるの?」

恵美「…?だって掃除しないと綺麗にならないでしょ?」

勇希「…。」

 

ガチャ

恵美「…あっ、北村さん、おはようございます。昨日はよく眠れましたか?…ええ、今日も良い天気で良かったですね、絶好の釣り日和ですよ?…あっ、朝刊ですか?はい、ちょっと待っててくださいね。」

勇希『だからこそ、そんな俺にとって、ここでいきいきと暮らしているこの少女は、とてもうらやましく思えた。』

勇希「(…何?俺の顔についてる?)」

恵美「(…ううん、なんでも…ない。)」

(勇希)…初対面の人の顔をじっと見るというのは、彼女のクセなのだろうか…

勇希「やめやめ!掃除、そうじっと。」

ガチャ(ドアを開けて外へ)

(勇希)余計なことを考えるのはやめよう。もともとそのために来たんだ。余計なことを考えて悩みの種を増やすことはない。  

(遠くから呼び合うように。)

恵美「あれっ?ちょっと、どこへ行くのー?」

勇希「どこって、掃除だよー?」

恵美「違う違う、うちの敷地はもっと向こうからだよー。」

勇希「…大自然、万歳…(独り言)。」

(勇希)…『向こう』に走っていた自動車が豆粒のようだった。

☆勇希の回想

(勇希)…いつの日からだろう?まわりの人ことが輝いてみえるようになったのは…

生徒A「なぁ、あの話知ってるか。」

生徒B「ああ知ってるよ。なんでも海外留学するんだろ?」

生徒A「すごいよなぁ。勉強はもちろん、スポーツもばっちりなんてな。」

生徒B「今年は留学準備があるからって大会にでなかったんだって?もったいないよな、もし出てたら3連覇できたんじゃないの?」

生徒A「もしってことはないだろ?俺、勇希が負けるところみたことないもん。」

学「なぁ、その勇希っていうのはどこにいるんだ?」

生徒A「えっ?…ああ、この時間なら屋上にいるんじゃないかなぁ。」

タッタッタ(走る音)

生徒「って、まてよ。その制服うちのじゃないじゃん。」

(勇希)…いつの日からだろう、負けるのが怖くなったのは…

 

ガチャ(屋上のドアを開ける)

学「よう。」

勇希「…。」

学「…。」

勇希「どうしたんだ?ここは君の学校じゃないだろ?」

学「…他に何か言うことはないのか?」

勇希「…優勝、おめでとう。かな?」

学「…大会、どうして出なかったんだ。」

勇希「受験。勉強しないと大学行けそうもないんで。父さんを困らせたくないしね。」

学「その割には こんなとこで油売ってて、余裕そうだな。」

勇希「…。」

(勇希)…やめてくれ…

学「どうしてなんだよ?高校生最後の年だから、決着をつけようって…あれだけ悔いの残らないよいにしようって約束したじゃないか。」

勇希「…。」

(勇希)…やめてくれ…

学「やっとお前に勝そうな気がしたっていうのに、どうしてなんだよ。」

勇希「…。」

(勇希)…もう、許してくれ!!

学「…。」

勇希「…。」

学「…。」

勇希「…こっちが聞きたいね。」

学「…はっ?」

勇希「………あんな水遊びごときで、どうしてそこまで熱くなれるんだい?」

学「…!!」

バキッドサッ

 

学「…ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう!」

タタタタタ、ガチャ、バタン

勇希「………ごめんな。」

(勇希)…『負ける』わけにはいかなかったんだ…… 

勇希「…そんなこと、誰が決めたんだ?」

(勇希)…いつの日からだろう?負けるのが怖くなったのは…。

 

(後半へ続く。)

 

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