| Story |
Spider Man
☆とある昆虫館
館長「よう、兄さん、どうしたんだい?…ああ、この蝶かい?『オオムラサキ』っていうんだ、見事なもんだろう?…えっ一匹ゆずってくれないかって?」
ナレ「綺麗な蝶を見るとき、『美しい』と感じるのは当然の事。…でもその美しいと感じるところは微妙に違ってくると思います。例えば羽根の模様が美しいという人、優雅に羽ばたいている姿が美しいという人。もしかしたら、さなぎから成虫になるあの瞬間がいいという人もいる人もいるかもしれません。はてさて、あなたの場合は、どうなのでしょう?…」
☆放送局〜とある喫茶店
ラジオのチューニングの音
曲スタート
鳴美「…楽しくお送りしてきたこの放送も、そろそろお別れの時間となってしまいました。一人部屋で聞いているあなた。仕事帰り、車の中で聞いているあなた。そして、仕事中に聞いているそこのあなた?今日の放送はお楽しみ頂けましたか?私の放送はひとときの安らぎの時間となったでしょうか?はい、では今日最後のお手紙です…ペンネームは…あっ、『ユウ』さんですね。いつもありがとう。『鳴美さん、こんばんは。鳴美さんのラジオ、いつも楽しく聞かせてもらってます…。』」
AD「あれっ?」
ディレクター「どうした?」
AD「この手紙、打ち合わせのやつと違いますよ。」
ディレクター「ああ、いいんだ。好きなようにさせときな。」
AD「でも。」
ディレクター「いいんだって。いつもこっちの指示どおりにうごいてくれてるんだ。こんなときぐらいあの娘のわがままを叶えてやらなきゃ野暮ってもんだ。」
AD「野暮?」
ディレクター「いやいや、こっちの話。」
AD「はぁ。」
鳴美「…この間昆虫採集が趣味っていいましたよね。実は今蝶の採集に凝っています。いつもよくお店なんかで買ってくるのですが、自分で捕まえたりするのも好きで、暇をみつけては山にいって見つけて来たりしています。この間新しい蝶を見つけました。とても綺麗な蝶です。いつかあなたにも見てもらえたらいいなぁと思いつつ、その 日を密かに心待ちにしたりしています。』」
ジャー(水を流す音)
食器を洗う音
カランカラン(カウベルの音)
店員「いらっしゃいませ。」
☆放送局
ディレクター「やぁ、鳴美ちゃん。」
鳴美「あっ、ディレクターさん。おつかれさまです。」
ディレクター「おつかれさん。どう?番組の方は?」
鳴美「はい。おかげさまで楽しくやらせてもらってます。」
ディレクター「そう、良かった。ファンも増えてきたようだし。これからもこの調子でがんばってな。」
鳴美「はい。」
ディレクター「…そうそう…ファンといえば。」
鳴美「はい?」
ディレクター「…今日も君の虜になったファンが一人。いつもの場所で待ってるよ。」
鳴美「ディレクターさん?そんなに冷やかさないでくださいよぉ。」
ディレクター「あはは。むくれるなって…ほら、今日はもういいから、さっさと行ってやんな。」
鳴美「はい。じゃあお先に失礼します。」
タッタッタ(歩く音)
ディレクター「…ふう。」
AD「?…どうしたんすか?ため息なんかついて。」
ディレクター「いやね。あの娘ってばどうしていつも生き生きしていられるのかなぁって思ってさ。」
AD「そうですねぇ。」
ディレクター「そりゃあ、もてるはずだよ。」
AD「そうですねぇ。」
ディレクター「ああ、若いっていいなぁ…。」
AD「ディレクター?」
ディレクター「なんだ?」
AD「…また奥さんともめたんですか?」
ディレクター「ねぇ聞いてよ、さゆりんったらねぇー!」
☆放送局(玄関前にて)
タッタッタ(歩く音)
鳴美「ゆうすけ〜。」
悠介「おう、来たか。」
鳴美「ごめん。少し待たせちゃったかな?」
悠介「いや、こっちも今来た所。さて、じゃあ行こうか。」
鳴美「ええ。」
☆とある喫茶店
カランカラン(カウベルの音)
店員「いらっしゃいませ。」
タッタッタ(歩く音)
トン(コップを置く音)
店員「ご注文はお決まりですか?」
悠介「ブレンドコーヒーを。…鳴美は?」
鳴美「私もそれでいいよ。」
悠介「じゃあ、ブレンド2つお願いします。」
店員「…。」
悠介「…店員さん?」
店員「えっ?ああ、ブレンド2つですね。かしこまりました。」
タッタッタ(歩く音)
鳴美「仕事の方は、どう?うまくいってる?」
悠介「まぁまぁかな。それなりにこなしてるよ。…そっちはどう?」
鳴美「うん。楽しくやってるよ。スタッフの人も良い人ばかりだし。」
悠介「そう、よかった。どうやら順調みたいだね。随分人気の方も出てきたみたいだし。時々、社内で君の番組の噂をよく耳にするんだ。」
鳴美「へぇ〜。」
悠介「まったく、同僚にも君のファンが多くて、困っちゃうよ。」
鳴美「もしかして、やいてるの?」
悠介「べっつにぃ。」
鳴美「ふふ。」
悠介「…。」
鳴美「…。」
悠介「…あれっ?へぇ…。」
鳴美「どうしたの?」
悠介「ほらっ見て。」
鳴美「なにっ?…あっ、きれい…」
悠介「オオムラサキだね。タテハチョウ科の一種で羽を開いた大きさは8センチから10センチぐらいになるんだ。日本では国蝶になんかに指定されてるんだ。」
鳴美「…へぇ、詳しいんだね。」
悠介「最近ちょっと凝っててね。家にもいるんだ。よかったら今度見せてあげるよ。」
鳴美「ほんとに?…あっ、でもどうして蝶なんかに興味を持ったの?」
悠介「ああ、この間ね、仕事先で昆虫館に行ってきたんだ。そしたらこいつがいて、見てたらきゅうに欲しくなっちゃって。…一目惚れだったかな?」
鳴美「ふ〜ん。」
悠介「…確かに綺麗だったからなんだけど。ただ綺麗というだけじゃなくて、その一生懸命生きようとする姿に轢かれたんだ。あんな小さな体なのに一生懸命羽ばたいて生きようとしている。…もっとも、それが綺麗に見える理由なのかもしれないけど。そう思うとこいつがとてもいとおしくなっちゃって。」
鳴美「へぇ…。」
悠介「あはは、でも『蝶がいとおしい』なんておかしいよね。」
鳴美「ううん。悠介らしくていいと思うよ。」
悠介「そうかな?…でも…自由に飛びまわってる蝶達には、ちょっと迷惑な話かもしれないね?」
鳴美「ふふ。」
(蝶だけにちょっちょっちょっ、いい感じ(モーむす。)…こほん…後編へ続く。)